南山の人工の崖
ギョロ目くんの話を
聞いてみました。
おれ様は崖のギョロ目。
本当はみんなに見えないところで 寝ているはずだったのだ。
だけど４０年ほど前、
おれ様の寝床が削られて 崖にされてしまい、
おれ様も とばっちりを受けて 輪切りにされ、
こんなギョロ目姿で
皆様にお目見えしたってわけだ。
おれ様の下には 分厚い砂のベッドのクッション。
６０メートルはあるやつだ。
人々は 稲城砂層 と呼んでいる。
このベッドは
３００万年前から７０万年前ぐらいのあいだ、
海辺や大きな川の河口で
積もりに積もった砂たちなのさ。
おれ様の上にはロームの布団。２枚重ねだぜ。
関東ロームって呼ばれてる。
こいつらは３０万年前から１万年前ぐらいの間に
箱根や富士山の噴火で飛び出た
火山灰が積もったものだ。
なかには鹿児島や八ヶ岳出身のやつらもいるらしい。
じゃあ おれ様はいったい何だって？
おれ様こそ教えてほしいよ。
おれ様の前世は砂なのか 火山灰なのか・・・
稲城市史って本に
行方不明になった古いローム層があるって
書いてあったぜ。
もしかしておれ様・・・？
・・・・・
おれ様も 元々は
上のローム層や 下の砂層と同じように
平たく のびのびと積もっていたのさ。
だけど チョロチョロ、ざあざあと水が流れ
川になって おれ様の両脇を削りやがった・・・
気がついたらやせた体で
こんな山の中に寝ていたってわけだ。
そのうえ 人間どもにへずられて
ギョロ目みたいになってしまった。
・・・・
おれ様にも おれ様なりの
人生というか 歴史ってものがあるんだ。